森の中の葦

王様の耳はロバの耳という逸話を、知らない人は少ないだろう。
王様の秘密、耳がロバの耳になっているということ、を知ってしまった理髪師が、口止めされた苦しさから誰もいない場所でその秘密を叫ぶ。
そしてその秘密が紆余曲折を経て白日の下に晒されてしまう、といった内容の話だ。
結末は様々だが、王様の秘密を暴露した罰として理髪師が処刑される、なんて話も聞いたことがある。


コンプライアンスのなんたるか、殊に個人情報の保護についての重要度がよくわかるお話だ。
会社で交わす、秘密保持契約書を書く際に渡される資料の例話として紹介してもいいくらいだ。
仕事上の取り決めを守らないとどこかしらで破綻がくる、という大変含蓄深い逸話である。

 

とはいえ、仕事上の秘密、あるいは愚痴をどんな形でもいいから吐き出したいというのは、わからない話ではない。
昨今のストレス多き人間社会においては、普段胸の内に抱えるモヤモヤを発散する場を欲するのは、大いに頷けるというものだ。
彼の理髪師の過ちはただ一つ、吐き出す場を間違えた、その一点に尽きよう。
理髪師はその胸の内に抱えた代物を、もっと慎重に、かつ上手に処理するべきだった。

 

まあファンタジックな要素を多分に含んだ童話だ、その点を過ちと指摘するのも酷というものだろう。
理髪師が秘密を叫んだ場所は、調べてみるといくつか種類がある。
森の中の葦。森の木のウロ。井戸。
理髪師自身が穴を掘って、その穴に向かって叫んだなんてのもある。
多分ほかにもあることだろう。
ちなみに筆者としては、葦が一番馴染みが深い。
その葦を羊飼いが笛にして吹くと、その笛は「王様の耳はロバの耳」という音を奏でだした、という話だ。

 

前置きが長くなったが、ここは私にとっての森の中の葦だ。
日常生活におけるよしなしごと、あるいは愚痴、文句、モヤモヤや鬱憤を吐き出すための場所とする。
さすがに私もいい大人だから、秘密を無作為にベラベラと言ったりはしないが、それでも言える範囲では吐き出してしまおうと思う。
ここならば秘密をばら撒く羊飼いはこないだろう。

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